男性不妊症

芝公園かみやまクリニック
神山洋

近年、晩婚化の影響もあり不妊症のご夫婦が増加傾向にあります。古くから不妊症というと女性にのみ問題があるという間違った考え方が広く認められており、妻が産婦人科に受診するという形が一般的でした。ある統計によれば、不妊原因の40%が男性にあり、20%前後が男女共にあると言われております。そのため男性の検査も平行して行うことが重要と思います。

男性不妊症の検査としては、まず精液検査が挙げられます。精液検査の正常値を<表1>に示します。精液検査結果を解釈する上で重要なことは、精液所見が検査する時々で大幅に変化するということです。1回の検査では正確な診断は下せないので、最低2回は行う必要があります。また、この正常値はあくまでも目安であり、精子の濃度や運動率がそのまま受精能力を表しているわけではありません。このため、精子濃度がかなり低いのに自然妊娠されたり、正常範囲でもなかなか妊娠されないこともあります。

<表1>
精液量 2ml以上
精子濃度 2000万/ml以上
精子運動率 50%以上
精子形態正常率 30%以上
精液中の白球数 100万/ml以下

男性不妊症で診察においでいただいた場合の検査について説明いたします。<表2>

<表2>
詳細な問診
オーキドメーターを用いた精巣容積の測定、男性生殖器の触診
(精巣の弾力性、精巣上体の触診、精索静脈瘤の検査)
ホルモン測定(LH、FSH、テストステロン、プロラクチン)
抗精子抗体検査
血算、肝機能、糖尿病の検査
精子濃度500万/ml以下の症例では染色体検査
正常形態精子の少ない場合は、特殊染色検査で精子形態を詳細に評価

まず、詳細な問診により精液所見に影響を与える可能性のある既往歴やご職業についてお聞きします。診察は触診と超音波検査を行います。いずれも痛みを伴うことはないので心配される必要はありません。ホルモン測定、血算、肝機能、糖尿病検査を行い、男性性機能に影響を与える疾患を診断いたします。これらの検査は採血による検査です。

精子濃度が高度に低い場合(500万/ml以下)は、男性本人に染色体異常が存在する頻度が高いと報告されています。染色体異常を認めた場合は、十分なインフォームドコンセントを行い治療方針を決めさせていただきます。精子形態に異常が多く受精障害が疑われる場合には、特殊染色検査を行い詳細に形態を評価して治療方針決定の資料といたします。

次に、男性不妊症の治療について説明いたします。<表3>

<表3>
薬物療法 漢方薬(八味地黄丸、補中益気湯、牛車腎気丸など)
ビタミン剤、循環改善薬(メチコバール、カルナクリンなど)
ホルモン療法(クロミッド療法、HMG-HCG療法)
性機能障害の治療(バイアグラ、レビトラ)
膿精液症の治療(クラビット、シンプロキサンなどの抗菌剤)
逆行性射精の治療(トフラニール)
手術療法 精索静脈瘤手術
人工授精 膣内射精障害では、膣内精液注入法
精液所見に異常がある場合は、精子の洗浄濃縮を行い人工授精
逆行性射精()で薬物療法無効の場合、膀胱内精子回収法による人工授精
高度生殖医療 体外受精、顕微授精
無精子症での精巣内精子回収法(TESE)による顕微授精
精子の凍結保存 白血病など悪性疾患による化学療法、放射線療法を行うと精液所見が悪化するため事前に凍結保存を行っておく
夫の海外赴任などのために夫婦生活を持つ機会が極端に少ない場合は、凍結しておいた精液を用いて人工授精が可能である

逆行性射精 射精感はあるが、精液が膀胱内に逆流してしまい射出精液が得られない状態を言う。糖尿病が原因となる場合もあるが、原因不明のことも多い。

精液所見や診察所見によってなるべく自然な形で妊娠していただけるように配慮しながら治療方針を決定しています。まず薬物療法を試みて、効果がない場合に人工授精や高度生殖医療にステップアップするように考えています。
治療法の決定は画一的に行うのではなくて、奥様の年齢や不妊期間、ご夫婦の希望により柔軟に対応いたします。

男性不妊症の診療は、産婦人科と泌尿器科の境界領域で、また、女性不妊症のように診断、治療方針が系統的に確立していないように思えます。高度生殖医療が広く普及した現在、本来治療可能な男性不妊症が見落とされたまま人工授精や体外受精へと治療がステップアップされる傾向にありますが、適切ではないと考えます。ぜひご夫婦での受診をお待ちしています。

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